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徳島地方裁判所 昭和57年(ワ)208号 判決 1987年12月23日

原告 柏原恒雄

右訴訟代理人弁護士 藤川健

被告 徳島市

右代表者市長 三木俊治

右訴訟代理人弁護士 岡田洋之

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し金一億九八八〇万円及び内金九九四〇万円に対する昭和五四年五月二九日から、内金九九四〇万円に対する昭和五九年八月二七日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は徳島市渭東地区の漁業関係者によって結成されている渭東漁業協同組合(以下「渭東漁協」という。)の組合員であり、組合が結成された昭和二七年以前から同市新浜町、山城町及び八万町先の園瀬川において一区画一九八〇平方メートルの漁場、二五区画、計四万九五〇〇平方メートル(以下「本件漁場」という。)を利用して海苔養殖業を営んでいた者である。

2  ところが、原告の本件漁場での海苔養殖による収穫は昭和四五年以降は皆無に等しく、海苔養殖は不可能となった。というのは、被告は、昭和四五年ころ同市山城町一帯に大規模な住宅団地が造成され、また、そのころ同町内にある私立・徳島文理大学の学内施設が拡張されたりしたことから、本件漁場の水域に向けて下水放流管を設置し、園瀬川に同地区から出る生活排水を一日約三五トンも放流するようになった。のみならず、被告は、従来徳島市住民のし尿を船で沖合まで運び海上投棄していたが、昭和三七年ころ徳島市南昭和町三丁目に全市域を対象とする徳島市中央下水処理場を建設して運転を開始し、全市の下水を集中して浄化し、浄化した下水を本件漁場付近に設置した下水放流管から園瀬川に放流し、放流量は次第に増加し、昭和六一年においては毎日六万三三〇〇立方メートルに及んでいる。これらの下水放流管はいずれも本件漁場の下流三、四百メートルの地点に設置されているが、多量に放流された下水は、塩分が低く淡水同様であり、川の流水と容易に混合することなく、満潮時に上げ潮に乗って本件漁場まで移動し、干潮時にもそのまま停滞する。そのため、本件漁場の海水の水質は従来は海苔の養殖に適合していたのに、前記下水の放流が行われるようになってからは、以下の原因で不適合となった。

(一) 栄養塩含有量の低下

海苔が成長するためには、光合成によって糖を作り糖を基質に窒素同化作用により蛋白質を作らなければならないが、蛋白質を作るためには、窒素、燐、カリウム、硫黄、鉄、カルシウム、マグネシウムなどが不可欠である。これらの成分は海水に含まれ、特に海苔の成長に関係のある栄養塩(硝酸塩、亜硝酸塩、アンモニア塩、燐酸塩、珪酸塩)は皆微量成分であり、したがって、海水に淡水が加わり、栄養塩の含有量が低下すれば、海苔の生育が不能となる。海苔は比重が一・〇一五の海水であれば成長に耐えるが、一・〇一〇以下では生育することが不可能であり、被告の下水放流により本件漁場の海水が淡水化し、その比重は、一・〇一〇以下になった。

(二) 酸素含有量の低下

海苔は光合成、窒素同化、細胞分裂を行うために必要なエネルギーを糖の酸化によって出すのであり(呼吸作用)、そのために海苔は水中から酸素を摂取する。したがって海苔養殖場における海水には酸素が含まれていることが必要であり、また、海水の流動がなければ、海苔の生育に必要な成分の補給が止まる。ところが、汚染された下水の放流により、本件漁場における海水は海苔の養殖に適しないほど無酸素状態になるとともに、海水の流動が妨げられた。

(三) 水質汚濁

水質汚濁の程度はCODで表示され、海苔養殖場ではCOD(化学的酸素要求量)が三ppm以下でなければ被害が発生するところ、し尿で汚染された下水の放流により、本件漁場の海水はCODが三ppmを超えるに至った。

(四) 細菌性浮漂物の発生

汚染された下水の放流により本件漁場に細菌性浮漂物が発生し、これが海苔の葉体に付着し、葉体の穴あき、汚れ、軟弱等の現象が生じ、ついに枯死させるまでになった。

3  被告は園瀬川に下水を放流するについては、本件漁場の水質が海苔養殖に不適合になることを容易に予見できるはずであるから、下水放流管を本件漁場の水質に影響を与えない位置に設置するか、下水を本件漁場において海苔養殖が可能であるような水質に処理してから放流すべきであるのに、これを怠り、その結果、本件漁場において海苔養殖を不可能にしたものである。

4  原告が園瀬川において収穫した海苔の昭和四二年から同四四年までの三年間の販売高は年平均四九七〇万四〇二六円であり、海苔養殖の必要経費は約三分の一であるから、右年間販売高からその三分の一に当たる一六五六万八〇九〇円を差し引いた残額三三一三万六〇三六円が年間の純益であった。被告による下水放流がなければ、原告は現在に至るまで本件漁場での海苔養殖によって少なくとも右純益相当額の収入を得ることができたはずである。

よって、原告は被告に対し右損害として、昭和五七年五月二八日以前の三年間分及び昭和六二年八月二六日以前の三年間分、合せて六年間分一億九八八一万六二一六円のうち一億九八八〇万円及び内金九九四〇万円に対し昭和五四年五月二九日から、内金九九四〇万円に対し昭和五九年八月二七日から、各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実のうち、原告が渭東漁協の組合員であり、徳島市西新浜町及び山城町地先の園瀬川において海苔養殖業を営んでいたことは認めるが、その余は不知。

原告は昭和五二年六月以降は園瀬川において海苔養殖場を営むための渭東漁協が有する第一種区画漁業権を行使する資格を有していない。

2  同2の事実のうち、山城町住宅団地の造成、同町内にある徳島文理大学の学内施設の拡張及び同地区から出る生活排水の放流、徳島市中央下水処理場の建設及びそこから出る下水の放流の事実は認めるが、その余は否認する。

右中央下水処理場で処理する下水は徳島市全域ではなく市内六地区から出るものに限られており、同処理場の昭和六一年度の一日平均排水量は五万二九〇〇立方メートルであって、原告主張の六万三三〇〇立方メートルは処理可能水量である。

海水の比重が一・〇一五以上、CODが三ppm以下の水質であれば、海苔養殖は可能であり、本件漁場においては、鑑定人秋月友治による鑑定の際の調査時の採水回数二七回のうち、海水比重が一・〇一五以上のものは二五回、CODが三ppm以下のものは二六回で、ほぼ基準に適合している。また、本件漁場の下流の津田橋での昭和五二年から九年間の調査においても、海水比重は採水回数一一四回のうち一・〇一五以上が九四回、CODは採水回数一一三回のうち三ppm以下が一一二回であり、CODについては問題がなく、海水比重もまずまずの数値を示しているのであって、本件漁場が海苔養殖に不適合であるとはいえない。

仮に本件漁場の水質が海苔養殖に適合しなくなったとしても、山城住宅団地及び徳島市中央下水処理場からの排水はいずれも本件漁場があった園瀬川とは川筋の異なる御座船入江に放流されており、右入江と園瀬川の合流点は本件漁場の数百メートル下流であるので、本件漁場の水質に影響を与えるものではない。したがって、被告による下水放流と本件漁場の水質変化との間に因果関係はない。本件漁場の水質が以前と比べて変化したとすれば、それは本件漁場に直接流入する園瀬川と冷田川の流域にあたる徳島市八万町、同上八万町地区が同市郊外の新興住宅地域として近年住民の増加が著しく、生活様式の変化と人工の増加によるこれらの地区からの生活排水が本件漁場に何らかの影響を与えたことによるものである。また、原告は昭和四二、三年ころ、約三年間にわたって、本件漁場を第三者に貯木場として賃貸し、そのため川底に木皮が堆積し、本件漁場が海苔養殖に不適となったものである。

3  同3の主張は争う。

4  同4の事実は不知。

原告は昭和四二、三年ころ、園瀬川のほか、沖洲川、新町川及び吉野川の鬼ヶ洲でも海苔の養殖をしており、しかも本件漁場では他の漁場と異なり黒海苔が採れず、青板等の価格の低い海苔を養殖していたのであるのであって、本件漁場で養殖していた海苔の売上高は原告の海苔の全売上高の一割にも満たないものであった。海苔養殖における必要経費の販売高に占める割合は三分の一よりはるかに大きいものである。

第三証拠《省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

1  園瀬川は徳島市の南部を西から東へ流れる中規模の河川であり、河口近くに至って冷田川と、さらに下って新町川と順に合流し、海洋へと注いでいる。本件漁場は園瀬川と冷田川とが合流する地点にあるところ、原告は昭和二〇年ころから、父の跡を継いで兄弟三人ともに、本件漁場において、徳島県知事から海苔養殖のための漁業権の免許と海苔網設置のための河川敷の占用許可を受けて(ただし、漁業権の免許については昭和四〇年から、河川敷の占用許可については昭和三九年から、それぞれ渭東漁協がこれを受けて原告がその行使をするようになった。)、海苔養殖業を営んでおり、昭和四〇年ころには、他の兄弟名義分を含めて約六百坪を一区画として二一区画の水面に、巾約五尺、長さ約一〇間の網計約一八〇〇枚を張り、繁忙期には百二、三十人の作業員を雇うなど、その規模は徳島県内業者としては最大のものであった。ところが、本件漁場においては、それまで概ね順調に採取されていた海苔が昭和四五年ころに至って全滅してしまい、その後昭和五〇年ころまで海苔網を設置し続けたが、海苔を収穫することはできなかった。そのようなこともあって、渭東漁協では、当時なお園瀬川で海苔養殖を営んでいたのは原告だけであり、付近の漁場は貯木場に変りつつあったことから、昭和五二年以降は園瀬川の河川敷の占用許可を受けず、昭和五八年九月一日以降は園瀬川における漁業権の免許も受けなくなった。

2  被告は、下水の衛生的集中処理を目的として、昭和三五年に徳島市南昭和町に市内六地区から成る中央排水区(当初の計画整備面積は約五八七ヘクタール、以後拡張して約六七〇ヘクタールとなる。計画排水人口は約七万一〇〇〇人で同市の全人口の三割弱を占める。)を対象とする中央下水処理場(昭和五六年に「下水浄化センター」と名称を変更する。)の建設に着工し、昭和三七年七月一日から運転を開始した。そして、その処理範囲は次第に拡大され、市内人口の増加や下水道網の整備に伴い右下水処理場からの排水量も増大し、昭和四四年当時の一日当たりの排水量は三万二八二六立方メートルであったのに対して昭和四六年においては四万四五九一立方メートルに達し、その間の増加はとくに著しい。また、一方、同市における住宅需要の増大に応えるため、昭和四五年ころには同市山城町に住宅団地が造成され、そこから出る下水を処理するため、同年四月二三日から山城団地処理場の排水施設の運転が開始されたが、そのころの入居戸数は僅かであり、その処理能力は現在も一日四〇〇トンであって、右処理場からの排水量は中央下水処理場の比ではない。右二つの下水処理場の排水放流管は、いずれも本件漁場からさらに河口寄り(川下)にある御座船入江に設けられており、本件漁場は右入江と園瀬川との合流点から約二百メートル上流にある。なお、徳島市においては、右以外の地域から出るし尿は昭和四七、八年ころまでは船で沖合まで運んで海上投棄されていたが、その後は徳島市論田町に建設されたし尿処理場で処理している。

3  海苔は、周囲の海水から必要な物質を吸収し、生活作用を行って成長していくものであり、その生活作用は、光合成作用、窒素同化作用、呼吸作用の三つに区分され、これらの総合の結果により海苔が生産される。糖類を作る光合成作用のためには、適当な日照と炭酸ガスが必要であり、糖類を基質にして蛋白質を作る窒素同化作用のためには、窒素、燐、カリウム、硫黄、鉄、カルシウム、マグネシウムなどの諸元素が不可欠であり、糖類を酸化させて光合成・窒素同化・細胞分裂に必要なエネルギーを出す呼吸作用には酸素が必要である。これらの物質は海水によって運ばれることから、水の流動や水質が重要な要素となり、とくに水質については、塩分、栄養塩の含有量、有害物質の有無、汚濁の程度などが問題となる。塩分については海水の比重を基準とするが、従来の研究では、海水の常態的な比重が一・〇二〇ないし一・〇一八なら海苔養殖に適合し、一・〇一五であればどうにか成長が可能であり、一・〇一〇以下であると生育することが不可能であるとされていたが、最近の研究では、産業的な安定生産を行うためには海水比重は一・〇二〇以上であることが望ましく、一・〇一五以下であれば障害を伴うこともあって養殖には不適当であるとされている。また、水質の汚濁の程度はCOD(化学的酸素要求量)によって表されるが、海水のCODが三ppm以上、最近の文献では二ppm以上であると、一時的なものであればともかくとして、そうでない限り、海苔に被害が発生し、海苔の養殖には不適であるとされている。

本件漁場において昭和六一年一一月九日(小潮。水の流動が少なくて停滞し易く、大潮時よりも悪い環境に置かれることになる。)、同月一八日(大潮)、一二月八日(中潮)、昭和六二年一月七日(小潮)の四日間いずれも降雨の影響の全くない状態で、鑑定人秋月友治による海水の比重とCODの調査が実施されたが、海水比重はほとんどが一・〇一五から一・〇一九であって一・〇一五を下回ることもあり、CODも大潮の時を除いて、一・五ppm以上で、二ppmを超えることもかなりあり、従来の考え方によっても海苔が成長するかどうかの限界線上にあり、近年の考えによれば、海苔養殖場として不適当と目される数値を示している。

4  徳島市中央下水処理場では、下水道を通じて集められた家庭用排水、雨水及び工場排水は沈砂池で砂や大きな浮遊物がとりのぞかれたあと、沈澱池で沈澱しやすい固形物が取り除かれ、高速散水炉床(昭和五五年からより高度な処理方法である回転円板接触槽に替わる。)と最終沈澱池での浄化を経て、浮遊物質分離装置で細かい浮遊物が取り除かれ、接触タンクで大腸菌やバクテリアを滅菌した後放流されている。処理場の排水に適用される水質基準は、PH(酸アルカリ度)が五・八ないし八・六、BOD(生物化学的酸素要求量)が八〇ppm(日間平均が六〇ppm)以下、COD(化学的酸素要求量)については基準がなく、SS(懸濁物質)が二〇〇ppm(日間平均は一二〇ppm)以下、大腸菌が単位当たり一立方センチメートル当たり三〇〇〇個以下であるところ、昭和五五年四月から三年間の測定結果では右基準に不適合の記録はなく、基準をはるかに下回っており、CODは平均測定値の最大が二五ppmである。徳島市山城団地処理場のそれは、PHは同じ、BODは四〇ppm(日間平均は三〇ppm)以下、SSは日間平均七〇ppm以下、大腸菌は同じであるところ、昭和五七年四月から一年間の測定結果では、同じく基準をはるかに下回っており、CODは平均測定値の最大が八ppmである。ただし、いずれの施設からの排水も塩分濃度は著しく低く、淡水に近いものである。

5  原告は昭和三二、三年ころ三年間にわたって海苔を養殖しない夏場に本件漁場を貯木場として貸与したことがあり、また、徳島県貯木場利用協同組合は昭和三八年ころ園瀬川の海苔養殖場近くの水域を貯木場として使用しはじめたが、養殖中の海苔を損傷する恐れのあることから、上流にある原告を除く渭東漁協組合員の養殖場を買収し、それ以来本件漁場の近辺を貯木場として利用していた。そのため右貯木場に係留していた木材の外皮などが堆積し、環境が悪化し海苔が採れなくなったので対策を講じてほしい旨の原告からの申出もあり、渭東漁協は昭和四六、七年に専門業者に依頼して本件漁場において川の浚渫をしたことがある。

6  徳島県に限らず海苔を養殖をしている地方では、従来、海上の沖合と比較して河川のほうが、作業船の燃料費も少なくてすみ、波が立たないことから手数もかからず、事故もなく、資材の耐久期間も長いなどの利点があって、養殖には河川が多く利用されていた。しかし、沖合の方が海水の塩分濃度が安定し、波が高くて流れが速く海苔への養分補給に適し、比較的漁期が長く、今日では、海苔の生産技術が向上し、安定して大量に生産できるようになり、また海苔養殖場付近の地域の都市化に伴う生活排水や工場排水の増加による河川の水質汚染などもあって、近年は全国的に沖合での養殖が多くなっている。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

右事実によれば、本件漁場で海苔が採取できなくなったのは昭和四五年ころからのことであり、そのころ徳島市中央下水処理場の排水量が著しく増大していること、右処理場の排水は入念に処理されたとはいえ、ある程度のCODの数値を示す汚水であり、しかも塩分の少ない淡水であること、本件漁場は少なくとも現在においてはCOD、海水比重(塩分)の面から海苔養殖に不適合な水質にあることに加えて、右認定の二つの下水処理場からの排水の放流位置は本件漁場の下流にあり、川筋も異なるけれども、塩分が低い淡水同様の排水は川の流水とは容易に混合せず、満潮時に上げ潮に乗って本件漁場まで移動して流れ込む可能性が十分にあることを総合すると、本件漁場周辺の木材の外皮の堆積による影響や、さらに園瀬川流域の人口増大に伴う生活排水の増加による流水の水質の変化を考えても、本件漁場で海苔が養殖できなくなったことについては、徳島市中央下水処理場からの排水が一因をなしている可能性のあることは否定できない。

二  しかしながら、都市への人口の集中とこれに伴う市街地の際限のない拡大・発展は、その良し悪しは別として、今日、全国のいずれの都市にもみられる顕著な現象である。そして、これはまた、都市の行政を掌る地方自治体に対しそこから排出される膨大な量の塵芥、生活排水等の処理対策を強力に迫るものであって、この問題こそ、全国の、都市の行政を掌る地方自治体が共通に抱える重大かつ緊急の課題である。被告もまた、徳島県の県都・徳島市の行政を掌る地方公共団体として、住民の保健衛生、都市環境の保全を図るために適切にして効果的な施策を講ずべき行政上の責務を負っているのであり、被告が設置した徳島市中央下水処理場及び山城団地下水処理場はいずれも増大する住民の生活排水処理のために必要不可欠な施設であるとみることができる。この点について、原告は、被告が十分な配慮をしないで、本件漁場の水域に向けて下水放流管を設置した旨主張するが、そのような事実を認めるに足りる証拠はなく、証拠上、右各下水処理場について、その設置場所の選定、設置の方法、施設の規模等の点において、被告に落度があったとみる余地を見出すことはできない。

徳島市中央下水処理場においては前認定のとおり、とくに現在では高度な方法で下水を処理した後排水をしているのであって、前記二つの下水処理場からの排水は原告が問題としているCODを含めて各検査事項について法令で定める基準をはるかに下回る数値を示しており、被告は水質汚濁の防止に相当の努力を払い、成果をあげている。また、右排水は塩分濃度が低く淡水に近いものであり、これが海水中で生育する生物に影響を与えることは否めないにしても、一般的にそれだけでは河川、海洋の環境条件に何らかの害悪を与えるとはいえず、法令も水質汚濁防止のための排水基準として塩分濃度(比重)については何らの規制もしていない。したがって、右各下水処理場からの排水自体は格別法令に触れるものではないのである。

ところで、原告の本訴請求は、原告が半ば永久的に本件漁場での海苔養殖を行いえたことを前提とするもののように見受けられるが、河川は元来多角的見地から人間生活の向上発展のために利用されるべきものであり、漁業もまた、その利用の一側面にすぎない。すなわち、河川においては、一方の側面における利用が他の側面におけるそれを排除する関係にあるのではなく、その社会的、自然的条件に応じて合理的な利用の調節が図られるべきものである。してみると、原告が本件漁場での海苔養殖ができなくなったのは、時代とともに、本件漁場を中心とする河川の社会的、自然的条件が変化したことによるのであり、原告が本件漁場について半永久的に漁業権の免許を受けえたとはとうてい考えられない。

以上のようにみてくると、被告による前記各下水処理場からの排水が本件漁場の海水の水質に何らかの影響を与え、結果的に原告の海苔養殖を不可能にする一因となっているとしても、右排水は不法行為を構成するに足りる違法性を有しないというべきである。

三  よって、原告の本訴請求はその余の点を判断するまでもなく理由がないから、失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大塚一郎 裁判官 曽我大三郎 栂村明剛)

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